
宇宙のメトロノーム、セファイド変光星【標準宇宙論②】
前回は「宇宙の距離はしご」をご紹介しました。第2段にあたるセファイド変光星について、「点滅の周期を測るだけで距離がわかる」とお話しました。今回はその仕組みを、もう少し丁寧に見ていきましょう。
明るさが変わる星がある
太陽は毎日ほぼ同じ明るさで輝いていますよね。でも宇宙には、明るくなったり暗くなったりを規則正しく繰り返す星があるんです。
セファイド変光星もその一種です。数日〜数十日というリズムで、明るさがゆっくり増したり減ったりします。なぜそんなことが起きるのでしょう?
星が「呼吸」している
セファイド変光星は、星そのものが膨らんだり縮んだりしているんです。まるで呼吸するように。
仕組みはこうです。
- 星が縮む → 内部のガスが圧縮されて不透明になる
- 熱が外に逃げられなくなる → 内側の圧力が高まる
- 圧力に押されて、星が膨らむ
- ガスが膨張して透明になる → 熱が逃げて冷える
- 冷えた星がまた縮む → 最初に戻る…
この「縮む→膨らむ→縮む」のサイクルが、数日〜数十日の周期で規則正しく繰り返されます。膨らんだとき表面積が増えるので明るく見え、縮んだときは暗く見えます。これが変光の正体です。
たとえ話: 手でゴム風船を握ると、空気が逃げられなくて変形しますよね。手を離すとまた元の形に戻ろうとします。セファイドはこれを、何日もかけてゆっくりやっている星です。
「周期」と「本当の明るさ」はなぜ比例するの?
ここが核心です。
星が大きいほど、1回の「呼吸」に時間がかかります。体の大きい人がゆっくり呼吸するのと同じです。そして星が大きいほど、本当の明るさも明るい。
星が大きい → 周期が長い・本当の明るさも明るい
星が小さい → 周期が短い・本当の明るさもそこそこ
つまり、点滅のテンポを測るだけで、本当の明るさが自動的にわかるんです。
発見者はヘンリエッタ・リービット
この関係を発見したのは、ヘンリエッタ・リービットというアメリカの女性天文学者です。1908年のことでした。

彼女が注目したのは小マゼラン雲という星の集まりです。
ここで一つ疑問が生まれませんか? 小マゼラン雲は地球から約20万光年。三角測量なんてとても届きません。距離がわからないのに、どうして研究できたのでしょう?
リービットの天才的な発想
リービットはこう考えました。
📝 NOTE「小マゼラン雲の正確な距離はわからない。でも雲の中の星どうしはほぼ同じ距離にあるはず」
東京から大阪を見たとき、「大阪城」と「通天閣」の距離の差は、東京〜大阪の距離に比べれば誤差のうちですよね。それと同じ発想です。
雲の中の星はみんな「だいたい同じ距離」と扱えるので、見かけの明るさの差=本当の明るさの差として計算できます。正確な距離がわからなくても、「周期と明るさの比例関係」は導き出せるんです。
観測が先、理論があとから来た
物理学では「理論と実験結果の一致」が証明になります。セファイドの場合、順番が少し特別でした。
リービットはひたすら写真乾板を観測し、1777個もの変光星を記録しました。そして周期と明るさをグラフにしたところ、きれいな直線が浮かび上がったんです。「なぜそうなるか」はまだわからない。でも「そうなっている」ことは確かだ——これが1908年の発見でした。
「なぜ周期と明るさが比例するのか」の理論的な説明(ヘリウムイオン化による星の呼吸の仕組み)は、数十年後に確立されました。観測が先で、理論があとから追いかけてきた。そして両方が一致したとき、証明が完成したんです。
ハッブルへの橋渡し
1923年、エドウィン・ハッブルはこの方法でアンドロメダ星雲のセファイドを観測し、その距離を計算しました。結果は天の川銀河の大きさをはるかに超える距離——。
📝 NOTEアンドロメダは、天の川銀河の外にある別の銀河だ。
当時「宇宙は天の川銀河だけ」と思われていた時代に、この発見は天文学の歴史を変えました。そしてハッブルはさらに多くの銀河の距離を測り続けます。その先に待っていたのが、宇宙膨張の発見です。
次回: ハッブルは距離だけでなく、銀河が遠ざかる速さも測っていました。「遠い銀河ほど速く遠ざかっている」——この発見が宇宙膨張へとつながります。
📚 シリーズ:標準宇宙論
- 1宇宙の距離はどうやって測るの? ―「宇宙の距離はしご」のはなし【標準宇宙論①】
- 2宇宙のメトロノーム、セファイド変光星【標準宇宙論②】
- 3宇宙は膨らんでいる——ハッブルの法則と「中心のない宇宙」【標準宇宙論③】
- 4すべては138億年前の一瞬から——ビッグバンとは何か【標準宇宙論④】
- 5宇宙の27%を占める「見えない物質」——暗黒物質とは何か【標準宇宙論⑤】
- 6光より速く膨らむ宇宙——暗黒エネルギーの謎【標準宇宙論⑥】
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