
宇宙は膨らんでいる——ハッブルの法則と「中心のない宇宙」【標準宇宙論③】
前回は「セファイド変光星で銀河までの距離を測る」方法をご紹介しました。ハッブルはその距離と、もうひとつの測定値を組み合わせて、歴史的な発見をします。そのもうひとつが赤方偏移です。
「もともとの星の色」はどうしてわかるの?
赤方偏移とは、遠ざかる銀河の光が赤い方向にずれる現象です。でもここで疑問が生まれませんか?
📝 NOTE「ずれた」と言っても、もともとの色がわからないと比べようがないのでは?
実はこれ、長年気になっていた方も多い疑問です。答えは**「元素の指紋」**にあります。
水素や酸素などの元素は、特定の波長の光だけを吸収する性質があります。星の光をプリズムで分けると、決まった位置に黒い縞(スペクトル線)が現れます。この縞の位置は、実験室で正確にわかっています。
実験室の水素スペクトル線:ここにあるはず
遠い銀河の水素スペクトル線:少し赤い方にずれている
→ このずれの量 = 遠ざかる速さ
元素の指紋を基準にすれば、「もともとどこにあるべきか」がわかる。だからずれを測れるんです。
光も音と同じ——ドップラー効果
救急車がサイレンを鳴らしながら遠ざかるとき、音が低くなりますよね。これは音の波が伸ばされるからです(ドップラー効果)。
光も波なので、まったく同じことが起きます。
遠ざかる銀河 → 光の波が伸びる → 波長が長くなる → 赤い方向にずれる
ずれが大きいほど、速く遠ざかっています。これで「銀河が遠ざかる速さ」が測れるんです。
ハッブルの発見——2つの数字を1枚のグラフに
1929年、ハッブルは多くの銀河について2つの数字を集めました。
- 距離(セファイド変光星で測った)
- 速さ(赤方偏移で測った)
そしてグラフにしてみると——
速
さ
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| /
| /
| /
| /
|/
+————————————— 距離
きれいな右上がりの直線が現れました。これがハッブルの法則です。
📝 NOTE遠い銀河ほど、速く遠ざかっている。
2倍遠い銀河は2倍の速さで、10倍遠い銀河は10倍の速さで遠ざかっています。
「中心はないの?」という疑問
ここで多くの人が思う疑問があります。
📝 NOTE「太陽系は天の川銀河の端にある。銀河の中心方向と反対方向では距離が違うよね。宇宙の端っこも、見る角度によって違うのでは?」
とても鋭い疑問です。2つに分けて考えてみましょう。
重力が膨張を打ち消す領域がある
実は、宇宙膨張はどこでも起きているわけではありません。銀河の中、太陽系の中——こういった重力でまとまっている場所では、膨張の力より重力の方が強いので、バラバラになりません。
重力が勝つ領域 → 膨張しない(太陽系・銀河・銀河団)
重力が届かない領域 → 膨張する(銀河と銀河のあいだの広大な空間)
レーズンパンのたとえで言うと——レーズン(銀河)の中身は膨らみません。レーズンとレーズンの**あいだの生地(空間)**だけが膨らんでいるんです。
どの方向を見ても、宇宙は同じ
では「見る方向によって宇宙の端は違うのでは?」という点はどうでしょう。
宇宙全体を非常に大きなスケールで見ると、銀河はどの方向を見ても同じくらいの密度で分布しています。これを宇宙原理といいます。
証拠が**宇宙マイクロ波背景放射(CMB)**です。ビッグバンの「残り熱」ともいえるもので、東を見ても西を見ても上を見ても、温度がほぼ同じ(誤差は10万分の1以下)なんです。

東を見ても → 同じ温度
西を見ても → 同じ温度
上を見ても → 同じ温度
これは「地球が宇宙の中心」ではないことを示しています。どこにいても同じように見える宇宙——だから中心はどこにもないんです。
宇宙膨張を「逆回し」すると
宇宙が今も膨らんでいるなら、時間を逆に戻したらどうなるでしょう?
現在 → 銀河が離れていく
過去 → 銀河が近づいていく
もっと過去 → どんどん縮んでいく
さらに過去 → すべてが1点に集まった瞬間……
これがビッグバンのアイデアの出発点です。「宇宙には始まりがあった」——この考えは、ハッブルの発見から論理的に導かれたものなんです。
次回: すべてが1点から始まったなら、その瞬間はどんな状態だったのか。そしてどうやって今の宇宙になったのか。次はいよいよビッグバンのはなしです。
📚 シリーズ:標準宇宙論
- 1宇宙の距離はどうやって測るの? ―「宇宙の距離はしご」のはなし【標準宇宙論①】
- 2宇宙のメトロノーム、セファイド変光星【標準宇宙論②】
- 3宇宙は膨らんでいる——ハッブルの法則と「中心のない宇宙」【標準宇宙論③】
- 4すべては138億年前の一瞬から——ビッグバンとは何か【標準宇宙論④】
- 5宇宙の27%を占める「見えない物質」——暗黒物質とは何か【標準宇宙論⑤】
- 6光より速く膨らむ宇宙——暗黒エネルギーの謎【標準宇宙論⑥】
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