きりしまノート

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旅先で聞いた話・歴史の断片・宇宙や図形のこと。おもいつくままに。

宇宙は膨らんでいる——ハッブルの法則と「中心のない宇宙」【標準宇宙論③】
宇宙・物理2026-04-28

宇宙は膨らんでいる——ハッブルの法則と「中心のない宇宙」【標準宇宙論③】

前回は「セファイド変光星で銀河までの距離を測る」方法をご紹介しました。ハッブルはその距離と、もうひとつの測定値を組み合わせて、歴史的な発見をします。そのもうひとつが赤方偏移です。

「もともとの星の色」はどうしてわかるの?

赤方偏移とは、遠ざかる銀河の光が赤い方向にずれる現象です。でもここで疑問が生まれませんか?

📝 NOTE

「ずれた」と言っても、もともとの色がわからないと比べようがないのでは?

実はこれ、長年気になっていた方も多い疑問です。答えは**「元素の指紋」**にあります。

水素や酸素などの元素は、特定の波長の光だけを吸収する性質があります。星の光をプリズムで分けると、決まった位置に黒い縞(スペクトル線)が現れます。この縞の位置は、実験室で正確にわかっています。

実験室の水素スペクトル線:ここにあるはず
遠い銀河の水素スペクトル線:少し赤い方にずれている
→ このずれの量 = 遠ざかる速さ

元素の指紋を基準にすれば、「もともとどこにあるべきか」がわかる。だからずれを測れるんです。

光も音と同じ——ドップラー効果

救急車がサイレンを鳴らしながら遠ざかるとき、音が低くなりますよね。これは音の波が伸ばされるからです(ドップラー効果)。

光も波なので、まったく同じことが起きます。

遠ざかる銀河 → 光の波が伸びる → 波長が長くなる → 赤い方向にずれる

ずれが大きいほど、速く遠ざかっています。これで「銀河が遠ざかる速さ」が測れるんです。

ハッブルの発見——2つの数字を1枚のグラフに

1929年、ハッブルは多くの銀河について2つの数字を集めました。

  • 距離(セファイド変光星で測った)
  • 速さ(赤方偏移で測った)

そしてグラフにしてみると——

     速
     さ
      |            /
      |          /
      |        /
      |      /
      |    /
      |  /
      |/
      +————————————— 距離

きれいな右上がりの直線が現れました。これがハッブルの法則です。

📝 NOTE

遠い銀河ほど、速く遠ざかっている。

2倍遠い銀河は2倍の速さで、10倍遠い銀河は10倍の速さで遠ざかっています。

「中心はないの?」という疑問

ここで多くの人が思う疑問があります。

📝 NOTE

「太陽系は天の川銀河の端にある。銀河の中心方向と反対方向では距離が違うよね。宇宙の端っこも、見る角度によって違うのでは?」

とても鋭い疑問です。2つに分けて考えてみましょう。

重力が膨張を打ち消す領域がある

実は、宇宙膨張はどこでも起きているわけではありません。銀河の中、太陽系の中——こういった重力でまとまっている場所では、膨張の力より重力の方が強いので、バラバラになりません。

重力が勝つ領域   → 膨張しない(太陽系・銀河・銀河団)
重力が届かない領域 → 膨張する(銀河と銀河のあいだの広大な空間)

レーズンパンのたとえで言うと——レーズン(銀河)の中身は膨らみません。レーズンとレーズンの**あいだの生地(空間)**だけが膨らんでいるんです。

どの方向を見ても、宇宙は同じ

では「見る方向によって宇宙の端は違うのでは?」という点はどうでしょう。

宇宙全体を非常に大きなスケールで見ると、銀河はどの方向を見ても同じくらいの密度で分布しています。これを宇宙原理といいます。

証拠が**宇宙マイクロ波背景放射(CMB)**です。ビッグバンの「残り熱」ともいえるもので、東を見ても西を見ても上を見ても、温度がほぼ同じ(誤差は10万分の1以下)なんです。

WMAP が観測した宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の全天マップ。どの方向も同じ温度分布を示している(NASA/WMAP Science Team)

東を見ても → 同じ温度
西を見ても → 同じ温度
上を見ても → 同じ温度

これは「地球が宇宙の中心」ではないことを示しています。どこにいても同じように見える宇宙——だから中心はどこにもないんです。

宇宙膨張を「逆回し」すると

宇宙が今も膨らんでいるなら、時間を逆に戻したらどうなるでしょう?

現在 → 銀河が離れていく
過去 → 銀河が近づいていく
もっと過去 → どんどん縮んでいく
さらに過去 → すべてが1点に集まった瞬間……

これがビッグバンのアイデアの出発点です。「宇宙には始まりがあった」——この考えは、ハッブルの発見から論理的に導かれたものなんです。


次回: すべてが1点から始まったなら、その瞬間はどんな状態だったのか。そしてどうやって今の宇宙になったのか。次はいよいよビッグバンのはなしです。

📚 シリーズ:標準宇宙論

  1. 1宇宙の距離はどうやって測るの? ―「宇宙の距離はしご」のはなし【標準宇宙論①】
  2. 2宇宙のメトロノーム、セファイド変光星【標準宇宙論②】
  3. 3宇宙は膨らんでいる——ハッブルの法則と「中心のない宇宙」【標準宇宙論③】
  4. 4すべては138億年前の一瞬から——ビッグバンとは何か【標準宇宙論④】
  5. 5宇宙の27%を占める「見えない物質」——暗黒物質とは何か【標準宇宙論⑤】
  6. 6光より速く膨らむ宇宙——暗黒エネルギーの謎【標準宇宙論⑥】
  7. ⋯ 続きの記事もあります